皆様、お疲れ様です!お元気でしょうか?慶應通信のE-スクーリングで『図書館・情報学』の授業の為に今回は『情報リテラシーのための図書館――日本の教育制度と図書館の改革』を読みました。
著者概要
根本 彰
根本 彰(ねもと あきら、1954年8月7日 – )は、日本の図書館情報学・教育学者。 東京大学名誉教授。慶應義塾大学文学部教授。1954年8月7日、福島県石城郡四倉町(現・いわき市)に生まれる。福島県立磐城高等学校[1]から1973年に東京大学に進学し、1978年に東京大学教育学部教育行政学科社会教育学専修を卒業する。引き続き同大学大学院に進み、1984年に教育学研究科博士課程単位取得修了。同年、図書館情報大学助手に就任。以後、講師(1988年)、助教授(1993年)を経て、1995年に東京大学大学院教育学研究科助教授に転任。2003年に教授に昇格する。2015年、東京大学を退官(名誉教授)し、慶應義塾大学文学部教授となる。
Wikipediaより引用
書籍概要
「本書執筆の当初のモチーフは、書物自体は一貫して重要視されていた日本で、社会機関としての図書館の評価が低かったのはなぜなのかということにあった。私は書いているうちに、これは単なる図書館論にとどまらず、書物論、情報論、文化論、そして何よりも教育論にひろがっていかざるをえないと考えるようになった。図書館の存在が意識されにくかった理由は、日本社会が個人の知的活動を自律的に行うことを妨げてきた理由と同じだということに気づいたからである。」図書館情報学において、「情報リテラシー」は、テクノロジーの発達に応じてその習得・活用・提供技術の更新が求められる、生きたテーマである。情報が氾濫する社会を生きる私たちにとって、第一次資料の保存庫であり、公共の情報サービス機関である図書館は、信頼の置ける、身近な情報拠点だ。これからの図書館は、図書の貸出し、検索技術の提供にとどまらず、利用者の情報リテラシーを導くといった教育的な役割も自覚的に担ってゆく必要がある。そして今日、学校での情報リテラシー教育も喫緊の課題となっている。日本の教育現場において、情報リテラシー教育の重要性は意識されてきたが、それはコンピューターなどの情報通信技術を使いこなす技能という認識にとどまってきた。だが、真の情報リテラシーとは、情報を探索し、評価し、それにより自分の問題を解決できる能力、さらにはその力をもって批判的思考を展開できることをいう。本書では、日本の教育制度と図書館の社会史をふりかえることで課題を浮き彫りにし、今後どのような改革をなすべきか、欧米の学校の動向と比較しつつ方向を示す。
Amazonより引用
出版社からのコメント
・著者からのメッセージがみすず書房のページにあります。
・また、本書の「はしがき」「目次」「引用・参照文献」「索引」が著者のブログで発信されています。併せてご参照ください。
「オダメモリー」の11月25日分
■書評紹介:
・「宇宙への創造力の扉を開ける知の技法」新庄孝幸・評(ノンフィクションライター)『図書新聞』2018年1月1日号
「著者はアルベルト・マングェルの『図書館ー愛書家の楽園』(翻訳は白水社)を出発点に本書を書いたと述べている。マングェルは図書館を人間の自画像であると形容した。図書館は現実の日常世界をそのものを与えてはくれないが、私たちは世界のイメージについて思いをめぐらし、それを様々に語り続けることができる。図書館とはその可能性を与えてくれる宇宙(紙でできたなじみ深い世界や言葉で組み立てられた意味のある宇宙」であり、私たちは物語や詩や哲学などをとおして宇宙の存在と意味を明らかにしようとする…マングェルの言を踏まえれば、著者の情報リテラシー学は、宇宙への創造力の扉を開ける知の技法である。それを手だてに扉を開ける主人公は、他ならぬ私たちだ。」
・「知識 成長に生かす教育支援」山口裕之・評(徳島大学准教授)『愛媛新聞』 1月22日 『佐賀新聞』 2月11日 ほか(共同通信配信)
「本書は、「調べたうえで考える」とは具体的にどうすることなのかを、「情報リテラシー」という概念に即して示している。すなわち、「事実」を「情報」として収集する。それをもとにする推論することで「理解」を形成する。確信を得た理解は「知識」となり、多数の知識が統合されることで「知恵」となる、という道筋である…情報は単に収集すればよいのではなく、情報をもとに自らが知恵ある者へと成長することが肝要なのだ。図書館の役割は、そうした学習を支援することにある。「知識を成長に生かす教育」について考えたい、全ての人に一読を勧めたい。」
・「批判的思考育む装置として」大久保俊輝・評(文教大学非常勤講師) 『日本教育新聞』6月11日号)
「「校長にはぜひとも読んでもらいたい内容に満ちあふれている」と、読後実感した。校長として、できることなら図書館へ出向いて調べたかったさまざまなことが、簡潔に明記されているからである…できるならば、第8章の大学入試改革と学習方法・カリキュラムから読まれると、本書の多様さと情報リテラシーを使うためのトレーニングが体感できる。」
Amazonより引用
読んでみて
インターネットの普及により、私たちはかつてないほど大量の情報に囲まれて暮らしています。知りたい情報に瞬時にアクセスできる素晴らしい時代である一方、何が正しくて何が間違っているのか、玉石混交の情報の中から信頼できる情報を見分け、批判的に読み解き、そして倫理的に活用する能力、すなわち「情報リテラシー」の重要性は、かつてなく高まっています。フェイクニュースやデマが社会を混乱させる現代において、情報リテラシーは、もはや「できたら良い」スキルではなく、「生き抜くために必須」のスキルと言えるでしょう。
では、この情報リテラシーは、一体どこで、どのようにして身につけるべきなのでしょうか? 学校教育でしょうか? 家庭でしょうか?
この問いに対し、長年、図書館情報学の分野で研究を続けてこられた根本彰氏は、本書で非常に明快かつ力強い答えを提示しています。それは、**「図書館こそが、情報リテラシー育成のための最も重要な拠点であり、そのためには日本の教育制度と図書館自身の大胆な改革が必要である」**というものです。
本日は、この根本氏の提言の真意に迫り、本書がどのように情報リテラシー、日本の教育、そして図書館の未来を捉え、どのような改革のビジョンを示しているのか、じっくりと深掘りしてまいりたいと思います。
1.なぜ今、「情報リテラシー」の育成が待ったなしなのか?
私たちが本書を読むべき最初の理由は、前述の通り、現代社会の情報環境が激変し、情報リテラシーが単なるスキルセットではなく、市民として、あるいは社会の一員として、主体的に生きるための「基礎力」となったからです。
インターネット検索、SNS、オンラインニュース…あらゆるチャネルから情報が洪水のように流れ込んできます。その中には、意図的に操作された情報や、根拠の曖昧な情報も数多く含まれています。これらの情報を鵜呑みにせず、情報の出所を確認し、複数の情報源と照らし合わせ、自分の頭で考えて判断する力は、民主主義社会の健全な維持にとっても不可欠です。
また、学校での学びにおいても、大学での研究においても、そして社会に出てからの生涯学習においても、情報を効果的に探し、活用する能力は、学びの質そのものを左右します。従来の「先生から与えられた知識を覚える」教育だけでは、変化の速い現代において、自ら学び続ける力、課題を発見し解決する力を育むことは難しいでしょう。
根本氏は、このような現代において、情報リテラシー教育が喫緊の課題であることを、様々な角度から論じています。
2.図書館への、私たちの「古いイメージ」を問い直す時
多くの日本人が持つ図書館のイメージは、「静かに本を読む場所」「本を借りる場所」「自習をする場所」といったものかもしれません。もちろん、それらも図書館の大切な機能です。しかし、根本氏が本書で提唱するのは、そのような従来のイメージを大きく超えた、**もっと能動的で、教育機関と深く連携し、人々の学びを積極的に支援する「情報リテラシー育成のプラットフォーム」**としての図書館像です。
単に情報(本やデータ)を「置いている場所」ではなく、情報へのアクセス方法、情報の選び方、使い方、そしてそこから新たな知識や考えを生み出す方法を「教えてくれる場所」「体験できる場所」へ。このパラダイムシフトこそが、本書の根幹にある考え方です。
3.根本氏が提唱する「情報リテラシーのための図書館」像(ここが核心の深掘り!)
本書の最も力を入れて論じられているのは、まさに、情報リテラシー育成のために、図書館がどのように変わり、どのような役割を果たすべきか、という具体的なビジョンです。根本氏は、図書館の持つ「公共性」「多様な情報資源へのアクセス」「情報の専門家(司書)の存在」といった独自の強みに着目し、以下のようが改革の方向性を示唆していると考えられます。
- 「情報の専門家=司書」の役割の再定義: 司書は、単に本の貸し出しや整理をする人ではありません。情報の海から必要な情報を見つけ出すナビゲーターであり、情報の信頼性を評価する方法を教えるインストラクターであり、倫理的な情報利用を啓発するエデュケーターであるべき、と本書は訴えかけます。司書が、情報リテラシー教育の担い手として、教育現場と積極的に連携していくことが重要だと論じているでしょう。
- 図書館を「学びのプロセスを支援する空間」へ: 静かに本を読むだけでなく、グループでディスカッションしたり、情報検索の方法を学んだり、調べたことを発表する準備をしたりできる、アクティブラーニングを支援する空間としての役割。デジタル機器やネットワーク環境の整備はもちろんのこと、多様な学びのスタイルに対応できる柔軟な空間設計の必要性も示唆されていると考えられます。
- 教育機関(学校)との連携強化: 学校図書館、公共図書館、大学図書館などが、それぞれ独立して存在するのではなく、連携し、児童・生徒・学生の情報リテラシー育成という共通の目標に向かって協力体制を築くこと。図書館司書と学校の教員がカリキュラム作成の段階から協働し、授業の中で図書館を積極的に活用する仕組みを作ることの重要性が論じられています。
- 情報資源の多様化とアクセス支援: 紙媒体の書籍だけでなく、オンラインデータベース、電子ジャーナル、デジタルアーカイブといった多様な情報資源へのアクセスを容易にし、それらを効果的に活用するためのガイダンスやツールの提供。情報弱者やデジタルデバイドへの対応も含め、誰でもが必要な情報にアクセスできる環境を整備すること。
- 生涯学習と市民の情報リテラシー向上への貢献: 学校教育段階だけでなく、社会人や高齢者を含む全ての市民が、情報リテラシーを高め、変化する社会に適応し続けるための学びの場、相談できる場として、公共図書館が中心的な役割を果たすこと。
本書は、これらの提言を、日本の教育制度の現状や、海外の図書館教育の事例なども引きながら、非常に論理的に展開しているはずです。単なる理想論ではなく、図書館が持つポテンシャルを最大限に引き出し、教育システム全体を変革していくための、具体的な戦略が射程に入っていると言えるでしょう。
4.図書館改革は、日本の教育制度をどう変えうるか?
根本氏の視点は、図書館改革が単に図書館自身の問題に留まらず、日本の教育制度そのものに大きな変革をもたらしうる、という点にまで及びます。
もし、学校や地域の図書館が、情報リテラシー育成のための能動的な拠点となれば、
- 子どもたちは、与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、自ら課題を設定し、情報を探し、分析し、自分の考えをまとめるという、より主体的な学びを経験できるようになるでしょう。
- 教員は、知識を一方的に教えるだけでなく、子どもたちの探究活動をサポートし、情報活用スキルを育むという、新しい役割を担うことができるようになります。
- これは、大学入試改革で求められる「思考力・判断力・表現力」といった能力の育成にも直結します。
- 社会に出てからも、図書館を生涯にわたる学びのパートナーとして活用し、変化に対応し続ける力を維持できるようになります。
つまり、根本氏が描くのは、図書館というインフラを活用することで、日本の教育が「知識の伝達型」から「探究・創造型」へとシフトしていく可能性なのです。
5.この本を読むことで得られる視点と、突きつけられる課題
この『情報リテラシーのための図書館』を読むことで、私たちは、日頃何気なく利用している図書館の持つ可能性、そして、情報リテラシーというスキルの重要性を、改めて深く認識することができます。根本氏の長年の研究に裏打ちされた分析は、非常に説得力があり、図書館や教育の現場に関わる方にとっては、自身の役割を問い直し、行動を起こすための強力な指針となるでしょう。
一方で、本書が提示する改革は、決して容易な道のりではありません。予算の制約、人材育成の課題、組織の硬直性、そして何よりも、社会全体が持つ「図書館=静かに本を読む場所」という根強いイメージを変えていくこと。これらの大きな壁が立ちはだかっています。
本書は、これらの課題の困難さをも示唆しているはずです。しかし、だからこそ、私たちはこの本を読み、問題意識を共有し、議論を始め、小さな一歩でも行動を起こしていく必要があります。
6.どんな人にオススメしたいか
- 学校の先生方(小・中・高・大学問わず)
- 図書館司書の方、あるいは図書館情報学を学ぶ学生さん
- 教育行政や文化行政に関わる公務員の方
- 子どもの情報リテラシー育成に関心のある保護者の方
- NPOなどで地域の学びを支援する活動をされている方
- これからの情報社会でどのように学び続けるべきか関心のある方
といった、教育や図書館、そして情報というテーマに関わる、あらゆる方に強くお勧めしたい一冊です。専門的な内容も含まれますが、根本氏の筆致は明晰で、読者を最後まで引き込んでくれる力があります。
7.まとめ:図書館は未来への扉を開く鍵 ~ 今、この提言に耳を澄ませる時
根本彰氏の『情報リテラシーのための図書館』は、情報過多な現代を生き抜くために不可欠な情報リテラシー育成という課題に対し、図書館こそがその中心的な役割を担うべきである、と明確に提言する、非常に重要な一冊です。
この本を読むことは、図書館という存在への見方を変え、日本の教育のあり方を問い直し、そして、情報リテラシーというスキルが、いかに私たちの人生を豊かにし、社会を健全に保つために不可欠であるかを再認識する機会となるでしょう。
もちろん、改革の道のりは険しいものです。しかし、根本氏が示すビジョンに学び、図書館が持つポテンシャルを信じ、教育の現場と図書館、そして私たち市民が連携していくことこそが、子どもたちが、そして私たち自身が、情報の荒波を乗り越え、未来を切り拓いていくための確かな一歩となるはずです。
ぜひ、この素晴らしい提言に、あなたも耳を澄ませてみてください。きっと、学びと社会への視界が、大きく開けることと思います。
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