皆様、お疲れ様です。コロナ患者がどんどん増えていってますが、いかがお過ごしでしょうか?元気にしていますでしょうか?私は忙しくて全然ブログも更新ができていないです・・・。読書もなかなか進んでいないのですが、何とか読み進めています。今回は、地理学Ⅰのレポートを書くのに必要なので読んだ本を紹介したいと思います。取り寄せる時間もなかったので毎度のkindleで購入しました。
今回読んだ本は
今回は、地理学Iレポート課題を進めるために読んだのです。地理学の中にトランスナショナルカンパニーが出てくるのですが、そのキーワードとしてモジュール化というのが出てきます。いくつか参考文献を探したのですが、基本的に産業分野においてモジュール化がどのようになっているのかを知りたくて手に取ったのが「モジュール化」対「すり合わせ」―日本の産業構造のゆくえという本でした。
著者について
中田 行彦 (なかた・ゆきひこ)
1946年,京都生まれ。1971年神戸大学大学院卒業後,早川電機工業(現・シャープ株式会社)に入社。以降,33年間勤務。太陽電池の研究開発に約18年,液晶の研究開発に約12年関わり,液晶事業本部技師長等を歴任。その間,米国のシャープアメリカ研究所研究部長等の3年間米国勤務。
2004年から,立命館アジア太平洋大学の教授として「技術経営」を教育・研究。
現在,立命館アジア太平洋大学大学院経営管理研究科教授(技術経営)兼同大学アジア太平洋イノベーション・マネジメント・センター(AP-IMAC)センター長
2009年10月から2010年3月まで,米国スタンフォード大学客員教授
工学博士(大阪大学),博士(技術経営:立命館大学)
安藤 晴彦 (あんどう・はるひこ)
1961年,東京都生まれ。1980年東京大学理科一類入学,1985年法学部第二類卒業後,通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業の経営革新,異業種交流,ベンチャー企業政策,電気料金制度,繊維産業政策,燃料電池や新エネルギーなどクリーンテックの研究開発と社会実装,省資源ものづくり,イノベーション政策,国際標準化を含む知的財産政策などを担当し,モジュール化理論の政策応用を実践。現在,経済産業省通商政策局勤務。電気通信大学客員教授,一橋大学国際・公共政策大学院客員教授兼資源エネルギープロジェクト・ディレクター,経済産業研究所コンサルティングフェロー,ビジネス支援図書館推進協議会理事。
柴田 友厚 (しばた・ともあつ)
1959年,札幌市生まれ。1983年京都大学理学部卒業後,ファナック株式会社,笹川平和財団,香川大学教授を経て,2011年4月から東北大学大学院経済学研究科教授。「イノベーション論」担当。
筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了(MBA)
東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻 博士課程修了(学術博士)
書籍概要
なぜ,ここまで日本のものづくりは崩壊してしまったのだろうか?
日本は,スマートフォン(スマホ),液晶,半導体,太陽電池などでも,世界シェアを急激に低下させた。なぜ日本の競争力は急激に低下してしまったのか?その原因として,個別企業の競争戦略,経営者の経営判断とともに,「産業構造」の変化が大きく影響する。経営戦略,経営者の経営判断とともに,「産業構造」の変化が大きく影響する。「産業構造」とは,経済全体を構成する各種の産業の比重や仕組みや関係を意味する。つまり産業の外部環境であり,この外部環境とその変化に,あらゆる産業が影響を受ける。この産業構造の変化に対応できなければ淘汰される。日本はグローバルな産業構造の変化に対応できていないのではないか。このグローバルな産業構造の変化を,ビジネス・アーキテクチャの視点で分析することが目的である。この研究の意義は,ビジネス・アーキテクチャの概念を再定義し,その変化がグローバルな産業構造に与える影響を明らかにすることである。その最終的な目的はグローバルな産業構造に対応できる日本の産業構造への指針を与えることである。
読んでみた感想・・・
「すり合わせ」「モジュール化」という言葉そのものが、日本の製造業の強み・弱みを語る際によく使われていることに気づかれている方もいらっしゃるかと思います。
この本は、東京大学の藤本隆宏先生、武石昭史先生をはじめとする研究者の方々が、日本の産業、特に自動車産業などを深く分析する中で見出した、非常に重要な概念を提示し、それが日本の産業構造にどのような影響を与え、これからどこへ向かうのか、という壮大な問いに挑んだ一冊です。
初版が出版されてからかなりの年月が経っていますが、そこで提示された問題意識や分析のフレームワークは、今なお全く色褪せておらず、むしろ現代の日本の停滞を理解する上で、ますますその重要性を増しているように感じています。
本日は、この「モジュール化」対「すり合わせ」という概念を丁寧に解説し、本書が私たちに何を問いかけているのかを、分かりやすくお話ししたいと思います。
1.かつて日本のモノづくりを支えた「すり合わせ」とは?
まず、本書のキーワードの一つである「すり合わせ」についてご説明します。
「すり合わせ」とは、簡単に言えば、製品を構成する部品や要素技術を、それぞれの担当者や部門が緊密に連携を取りながら、繰り返し試行錯誤し、お互いを「すり合わせる」ことで、全体として最適な性能や品質、機能を実現していくモノづくりの手法です。
例えば、かつての日本の自動車開発などは、まさにこの「すり合わせ」の典型例と言われます。エンジン、トランスミッション、ボディ、足回りなど、様々な部品やシステムを開発する部署が、お互いに密にコミュニケーションを取り、設計や製造の段階で細部にわたる調整を何度も行い、全体の性能や乗り心地といった「感性的な部分」も含めて、徹底的に最適化していきます。
この「すり合わせ」型のモノづくりは、以下のような特徴を持ちます。
- 暗黙知の活用: マニュアル化されていない、担当者間の経験や勘、微妙なニュアげが重要となる。
- 部門間・企業間の緊密な連携: 開発、製造、サプライヤーなどが一体となって問題解決にあたる。
- 全体最適の追求: 個々の部品の性能だけでなく、組み合わせた時の全体としての性能や品質を極限まで高める。
- 高品質・高信頼性: 細部まで作り込むことで、壊れにくく、長く使える製品を生み出す。
かつて、日本の自動車や家電製品などが世界市場で圧倒的な強さを誇った背景には、この「すり合わせ」によって実現される、高い品質と全体の最適化がありました。これは、日本企業の組織文化や、系列を中心とした部品メーカーとの関係性とも深く結びついた、日本ならではの強みだったと言えるでしょう。
2.グローバル化とデジタル化が推し進めた「モジュール化」の時代
一方、「モジュール化」とは、製品を、互いに独立した機能を持つ部品やコンポーネント(モジュール)に分解し、それらの間のインターフェース(接合部分の規格)を標準化することで、モジュール単体で開発・製造・交換・アップグレードを可能にするという考え方です。
最も分かりやすい例は、パーソナルコンピューター(PC)です。CPU、マザーボード、メモリ、ハードディスク、OS、ディスプレイなどは、それぞれ異なるメーカーが開発・製造していますが、規格化されたインターフェース(例えばUSBや各種コネクタの形状、ソフトウェアであればAPIなど)を通じて簡単につなぎ合わせ、組み替えることができます。
「モジュール化」は、以下のような特徴を持ちます。
- 分業の促進: 各企業は特定のモジュールの開発・製造に特化できる。
- 参入障壁の低下: 特定のモジュールで高い技術力があれば、製品全体を作れなくても市場に参入できる。
- 開発期間の短縮: 各モジュールを並行して開発できるため、製品化までのスピードが上がる。
- コスト削減: 標準化されたモジュールは大量生産しやすく、価格競争が働きやすい。
- 柔軟性と多様性: ユーザーは好みのモジュールを組み合わせて製品をカスタマイズしたり、簡単にアップグレードしたりできる。
1990年代以降、グローバル化が進み、インターネットやデジタル技術が発展するにつれて、この「モジュール化」という考え方が、PC産業を筆頭に、様々な産業で主流となっていきました。国境を越えて最適なモジュールを調達し、組み合わせることで、安価で高機能な製品をスピーディーに市場に投入することが可能になったのです。
3.「モジュール化」が日本の「すり合わせ」に突きつけた課題(ここが核心の深堀り!)
本書『「モジュール化」対「すり合わせ」』の核心は、まさにこの点にあります。
「すり合わせ」によって全体最適を追求し、高い品質を実現してきた日本の製造業が、「モジュール化」が支配的になったグローバル市場で、その強みを十分に活かせなくなってしまったのではないか? という問題提起です。
具体的には、以下のような課題が突きつけられました。
- 価値の源泉の変化への対応遅れ: モジュール化の世界では、製品全体の「すり合わせ」による最適化よりも、特定の高性能な「モジュール」や、モジュール間の「インターフェース規格(アーキテクチャ)」を握っている企業が大きな利益を得やすくなります。日本は、個々のモジュールの技術力は高くても、全体を企画し、アーキテクチャを設計・支配する力が弱かったり、高付加価値なモジュール分野で欧米や新興国に後れを取ったりするケースが見られました。
- 垂直統合・系列のデメリット化: 「すり合わせ」に有利だった自社内での垂直統合や、緊密な系列サプライヤーとの関係性が、逆にグローバルなモジュール市場から最適な部品を自由に調達したり、自社の得意なモジュールを外部に広く販売したりする上での足かせとなる側面が出てきました。
- スピードとコスト競争での不利: 細部まで「すり合わせ」で作り込むには時間もコストもかかります。モジュール化によるスピードとコストを重視する競争の中で、この「すり合わせ」の丁寧さが、必ずしも市場での勝劣に直結しなくなったのです。
- 「見えない部分」への弱さ: 日本が得意とした「すり合わせ」は、製品の物理的な形状や性能といった「見える部分」に強みを発揮しました。しかし、モジュール化が進んだ現代の製品は、ソフトウェアやサービス、ネットワークといった「見えない部分」の価値が非常に重要になっています。日本は、この「見えない部分」の設計や「すり合わせ」(例えば、ハードウェアとソフトウェアのすり合わせなど)において、必ずしも強みを発揮できていない側面が指摘されました。
本書は、これらの点を、具体的な産業事例を挙げながら詳細に分析しています。かつての成功体験である「すり合わせ」に最適化されすぎていた日本の産業構造が、世界のゲームチェンジに対応しきれていない現状を、鋭く、そして構造的に解き明かしています。
4.日本の産業構造の「ゆくえ」を考えるための羅針盤
では、このような状況の中で、日本の産業はこれからどこへ向かうべきなのでしょうか? 本書は、その「ゆくえ」を考えるための重要な視点を提供してくれます。
「すり合わせ」が全く無価値になったわけではありません。自動車産業のように、安全や環境性能、乗り心地といった全体最適が重要な分野では、依然として「すり合わせ」の力は重要です。また、医療機器や産業機械など、高度な信頼性やカスタマイズ性が求められる分野でも、「すり合わせ」で培った知見は活かせるでしょう。
しかし、これからの時代は、「すり合わせ」か「モジュール化」かの二者択一ではなく、「すり合わせ」で培った強みを活かしつつ、いかに「モジュール化」のメリットを取り込み、変化に対応していくかが問われます。
本書から読み取れる「ゆくえ」へのヒントとしては、
- 「アーキテクチャ(設計思想・規格)を制する」ことの重要性: 製品全体の「司令塔」となる部分や、業界標準となる規格を握ることの重要性を理解し、そこでの競争力を高めること。
- 特定の「キラーモジュール」で世界一を目指す: 製品全体ではなくても、非常に高い技術力や付加価値を持つ特定のモジュール分野に特化し、そこで世界の覇権を握ること。
- 「すり合わせ」と「モジュール化」の組み合わせ: 製品全体はモジュール化されていても、モジュール内部や、ソフトウェアとハードウェアの間など、部分的に高度な「すり合わせ」が必要とされる領域で強みを発揮すること。
- 「見えない部分」(ソフトウェア、サービス)の強化: 製品の価値がハードウェア単体ではなく、ソフトウェアやサービスとの連携によって生まれる時代に対応すること。
といった点が考えられます。
本書は、これらの複雑な課題に対して、明確な答えを一つだけ示すというよりも、**私たちが日本の産業の現状を理解し、その未来を考えるための、非常に強力な「思考のフレームワーク」**を与えてくれる本と言えるでしょう。
5.この本を読むことで得られる視点
この『「モジュール化」対「すり合わせ」』を読むことで、
- かつて日本がなぜモノづくり大国になれたのか、その強みの本質を理解できます。
- なぜ、あの日本企業が、あの産業で苦戦しているのか、その構造的な理由が見えてきます。
- 自分の会社の事業や、自分が携わっている仕事が、「すり合わせ」型なのか「モジュール化」型なのか、あるいはその両方の要素を持つのかを分析する視点が得られます。
- 日本の産業がこれからどこへ向かうべきか、その方向性について自分自身の頭で考えるための基礎知識が得られます。
単なる経済理論書ではなく、私たちの社会や生活を支える「産業」というものを、深く理解するための、非常に実践的な視点を与えてくれる本です。
6.どんな人にオススメしたいか
- 製造業にお勤めの方(特に企画、開発、生産、経営に関わる方)
- 日本の産業構造や経済の動向に関心のある方
- 大学で経済学、経営学、技術経営などを学ぶ学生さん
- ご自身のビジネスやキャリアを考える上で、時代の変化に対応するためのヒントを得たい方
といった方々に、特におすすめしたい一冊です。少し専門的な用語も出てきますが、NHKブックスということもあり、非常に分かりやすい語り口で書かれており、学術書を読み慣れていない方でも十分に理解できる内容だと思います。
7.まとめ:今こそ読み直すべき、日本の産業の行方を問う名著
『「モジュール化」対「すり合わせ」―日本の産業構造のゆくえ』は、日本の産業が直面している構造的な課題を、非常にクリアな概念を用いて浮き彫りにした、まさに時代を超えた名著です。
「すり合わせ」で成功した過去の栄光に浸るのではなく、世界の「モジュール化」という大きな波が、日本の強みをどのように相対化し、新たな課題を突きつけているのか。そして、その中で日本がどのような戦略を描くべきなのか。
この本を読むことは、日本のモノづくりの歴史を理解し、現在の位置を知り、そして不確実な未来を考えるための、何より強力な一歩となるはずです。
ぜひ、この機会に手に取っていただき、日本の産業の「ゆくえ」について、共に考えてみませんか。
きっと、あなたのビジネスや、社会を見る解像度が、ぐっと上がることをお約束いたします。
それでは、今日はこの辺で。また次回の書評でお会いしましょう!
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