皆様、お疲れ様です!今回は、慶應通信の夜間スクーリング「西洋美術」の授業の為に
「西洋美術の歴史5 ルネサンスII」を読みました。
「ルネサンスってイタリアだけじゃないの?」「北方の美術って何がすごいの?」「美術史、ちょっと難しそう…」そんな疑問や不安をお持ちの方も大丈夫!この記事を読めば、きっとあなたも北方のルネサンスと、この素晴らしい美術書の虜になるはずです!
さあ、アルプスを越えて、北方の芸術が「覚醒」した時代へと旅立ちましょう!
著者概要
小佐野重利
日本の美術史学者、東京大学名誉教授。専門は中世・ルネサンスの西洋美術。
小佐野 重利(おさの しげとし、1951年 – )は、山梨県出身。1978年東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院入学、1980年より1982年までパドヴァ大学美術史学科在学(イタリア政府給費留学生)、1985年東大博士課程中退、助手、1989年東京工業大学助教授、1993年東京大学文学部助教授、1994年教授。2012年先端構想部門教授。2013年文学部長、人文社会系研究科長。2017年定年退任、名誉教授。『記憶の中の古代―ルネサンス美術にみられる古代の受容』により1993年度イタリア文化会館主催マルコ・ポーロ賞受賞、2003年イタリア大統領より騎士勲章授与。
Wikipediaより引用
小池 寿子
小池 寿子(こいけ ひさこ、1956年5月4日 – )は、日本の美術史家。学位は文学修士[1]。國學院大學文学部教授。専門は15世紀北方フランドル美術・中世美術などの西洋美術史。
略歴
1979年 お茶の水女子大学文教学部哲学科美学美術史専攻卒業
1985年 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科比較芸術学博士課程満期退学
1989年 文化女子大学家政学部生活造形学科専任講師、ついで助教授
1998年 國學院大學助教授
2000年 『死をみつめる美術史』で芸術選奨新人賞受賞
2001年 國學院大學教授
Wikipediaより引用
三浦篤
三浦 篤(みうら あつし、1957年5月20日 – )は、日本の美術史学者、東京大学教授。専門は西洋近代美術史、日仏美術交流史。
島根県大田市生まれ。1981年、東京大学教養学部教養学科フランス科卒業。1990年、同大学大学院美術史学博士課程中退。パリ第4大学美術考古学研究所で西洋美術史を学び、1997年博士号取得。1993年、東京大学教養学部助教授。2006年、同総合文化研究科教授。
Wikipediaより引用
書籍概要
イタリア各地でルネサンス期の芸術文化が華々しく展開した頃、アルプスの北側でも、それに勝るとも劣らない偉大な美術が実を結んでいた。ヤン・ファン・エイク、ボス、デューラー、ブリューゲルをはじめとする画家たちが、きわめて個性的な作品を生み出したのである。その背景には、画材や技法の驚異的な進歩や、美術市場の誕生などの社会的要因があった。独自な着想と南北の影響関係があいまって、精緻かつ大胆な美術が展開する。
読んでみて
本書は、中央公論新社が満を持して刊行している、全8巻の「西洋美術の歴史」シリーズの第5巻です。このシリーズは、西洋美術史を時代ごとに区切り、各時代の特徴や主要なアーティスト、作品を、豊富な図版と分かりやすい解説で紹介してくれる、まさに美術史を学ぶ上での最高の羅針盤と言えるでしょう。
専門的な知識がない人でも、このシリーズを順に読んでいけば、西洋美術史の大きな流れと、それぞれの時代のユニークな魅力を掴むことができます。単なる作品集ではなく、歴史的背景、社会情勢、哲学や科学の発展といった様々な側面から美術を読み解いてくれるので、美術史が「暗記科目」ではなく、血の通った「物語」として心に入ってきます。
第1巻で古代、第2巻で中世、第3巻・第4巻でイタリア・ルネサンスを学んだ後、この第5巻で北方ルネサンスに進むのは、非常にスムーズで理解しやすい流れです。イタリアで築かれた基盤と比較しながら、北方の独自性を理解できる構成になっています。
本書の概要:ルネサンス期の「北方」で起きた芸術革命
「西洋美術の歴史5」が扱うのは、主に14世紀後半から16世紀にかけての、フランドル(現在のベルギーやオランダ)、ドイツ、フランスなどのアルプス以北の地域で生まれた美術です。
この時代、北方ではイタリアのような古典古代の遺跡や文化は身近にありませんでした。そのため、北方のルネサンスは、イタリアのように古代への回帰を目指すのではなく、中世ゴシック美術の伝統、特に「細密な描写」や「豊かな宗教的感情」といった要素を継承・発展させる形で独自の道を歩みました。
本書では、この北方の芸術革命を、以下の重要なテーマを通して深く掘り下げています。
- 油絵技法の確立と発展: ファン・エイク兄弟らが確立した油絵技法が、北方の美術に革命をもたらしました。驚くほどリアルな質感や光の表現を可能にし、その後の西洋絵画全体に大きな影響を与えた技術革新について詳しく解説されています。
- 現実世界と象徴表現の融合: 北方の画家たちは、身の回りの日常生活や風景を驚くほど写実的に描きました。しかし、そこに描かれた一つ一つのモチーフ(家具、植物、衣服など)には、実は隠された宗教的・道徳的な意味(象徴)が込められていることが多いのです。この、現実世界と象徴が見事に融合した表現の面白さが、豊富な図版と共に解き明かされます。
- 市民社会と新しいパトロン: イタリアでは主に教会や貴族が美術の主要なパトロンでしたが、北方では商業で栄えた都市の裕福な市民階級が重要なパトロンとなりました。彼らの価値観や生活が、美術にどのように反映されたのかが解説されます。
- 宗教改革の波と美術: 16世紀に入ると、ルターによる宗教改革が起こり、北方の社会と文化に大きな影響を与えます。教会や宗教美術のあり方が問われる中で、芸術家たちがどのように対応していったのか、ボスやブリューゲルといった個性的な画家の作品を通して考察されます。
これらのテーマが、主要なアーティストや作品の紹介と有機的に結びついて語られていくため、単なる羅列ではなく、北方のルネサンスという時代が、なぜ、どのようにして独自の輝きを放つようになったのかが、立体的に理解できます。
本書の核心に迫る!「自意識」と「自然表現」
本書のサブタイトルにある「自意識」と「自然表現」は、この時代の北方の美術を理解する上で、特に重要なキーワードです。本書は、これらのテーマを非常に分かりやすく、そして深く掘り下げて解説しています。
自意識(The Awakening of Self-Awareness)
ルネサンス期は、ヨーロッパ全体で「人間」そのものへの関心が高まり、個人の価値が見直された時代です。美術の分野でも、アーティストは単なる職人から、知的な創造者、あるいは天才として認識されるようになります。
北方でも、このアーティストの地位向上と「自意識」の芽生えが見られます。
- 署名の重要性: 多くのアーティストが作品に署名を入れるようになります。これは「この作品は自分が作ったものだ」という自己主張であり、個人のアイデンティティの表明です。
- 自画像の制作: アルブレヒト・デューラーに代表されるように、アーティスト自身を主題とした「自画像」が多く描かれるようになります。これは、外見の記録であると同時に、内面への関心、自己探求の表れでもあります。デューラーの自画像は、その後の芸術家による自画像制作に大きな影響を与えました。
本書では、これらの作品を通して、アーティストたちがどのように自己を認識し、社会にその存在を示そうとしたのかが解説されます。これは、現代を生きる私たちにとっても、自己表現やキャリアを考える上で非常に示唆に富むテーマだと感じました。
自然表現(Natural Representation)
北方のルネサンス美術の最も分かりやすい特徴の一つが、その 驚異的な細密描写 です。本書は、この「自然表現」がいかに優れていたか、そしてそれが何を意味するのかを丁寧に解説しています。
- 油絵技法の力: ファン・エイク兄弟によって確立された油絵技法は、顔料を油で溶くことで、それまでのテンペラ画では不可能だった色の重ね塗りや、透明感のある表現、そしてガラスや金属、布地の光沢といった「質感」を驚くほどリアルに描くことを可能にしました。本書の豊富な図版を見ていると、その技術力にただただ圧倒されます。
- 細部へのこだわり: 北方の画家たちは、画面の隅々に至るまで、 meticulous (細心の注意を払って)描写しました。人物の顔のシワ一本、衣服の刺繍の糸、背景の風景に咲く草花、部屋の家具の木目…全てが生き生きと描かれています。
- 自然表現の意図: この細密な自然表現は、単に画家が高い技術を持っていたというだけでなく、彼らの世界観や宗教観と深く結びついていました。神が創造した世界のあらゆるものに神の徴を見出し、それを忠実に描写すること自体が宗教的な行為と見なされたり、あるいは市民階級の「所有」や「現実」を重んじる価値観が反映されたりしたと考えられています。
本書は、具体的な作品を例に挙げながら、「なぜこの時代に、北方でこのような写密描写が発展したのか」「そこに込められた意味は何か」といった問いに答えてくれます。美術作品を「見る」だけでなく、「読み解く」楽しさを教えてくれる部分です。
本書で出会える、個性豊かなアーティストたち
この本では、イタリアの巨匠たちとはまた一味違う、個性的で魅力的な北方のアーティストたちに出会うことができます。本書で詳しく紹介されているのは以下のような画家たちです。
- ヤン・ファン・エイク、フーベルト・ファン・エイク: 油絵技法を確立した兄弟。その驚異的な写実性と光の表現は必見。「ヘントの祭壇画」は初期フランドル派の最高傑作の一つ。
- ロヒール・ファン・デル・ウェイデン: 人物の感情表現に優れ、ドラマティックな画面構成が特徴。その様式はヨーロッパ中に影響を与えました。
- ハンス・メムリンク: 穏やかで洗練された様式が特徴。美しい肖像画や宗教画を残しました。
- ヒエロニムス・ボス: 異様な怪物や幻想的な世界を描いた、異色の画家。人間の罪や愚かさを風刺した、唯一無二の作品群は今見ても新鮮です。「快楽の園」はあまりにも有名。
- ピーテル・ブリューゲル(父): 農民たちの生活や風景を描いた画家。集団描写や寓意的な表現に優れ、後のフランドル絵画に大きな影響を与えました。「バベルの塔」や「農民の踊り」などが有名。
- アルブレヒト・デューラー: ドイツ・ルネサンス最大の巨匠。絵画だけでなく、版画において革新的な技術と表現力を示し、その後の版画の歴史を変えました。自画像や動物、植物の緻密な描写でも知られます。
- マティアス・グリューネヴァルト: 激しい感情表現と幻想的な色彩が特徴。特に「イーゼンハイムの祭壇画」は、見る者に強烈な印象を与えます。
これらのアーティストたちが、それぞれの個性や時代背景の中で、いかに魅力的な作品を生み出したのかが、本書を読むことで生き生きと伝わってきます。彼らの作品を知ることは、美術史の知識が増えるだけでなく、人間の表現力や想像力の多様さに触れることでもあります。
この書籍の素晴らしい点・魅力的なポイント
「西洋美術の歴史5」を読んで、特に素晴らしいと感じた点をまとめます。
- 図版が豊富で美しい: 美術史書として最も重要なポイントの一つ。本書は図版が多く、印刷も非常に綺麗です。細密描写が重要な北方美術において、高解像度で細部まで確認できる図版が多いのは、何よりの魅力です。
- 解説が分かりやすい: 専門用語に偏りすぎず、美術史の大きな流れや、個々の作品が持つ意味、アーティストの意図などを、とても丁寧に解説してくれています。歴史的背景や社会情勢との関連性も明確に示されるため、美術史が立体的に理解できます。
- 独自のテーマ設定: 「北方の覚醒」「自意識」「自然表現」といったキーワードを設定し、それを軸に論を進めることで、ルネサンス期の北方の美術が持つ独自の特性が鮮やかに浮かび上がります。イタリア美術との違いを明確にすることで、それぞれの面白さが際立ちます。
- 美術作品の見方が深まる: この本を読む前と後では、美術作品を見る「解像度」が格段に上がります。ただ「綺麗だな」と思うだけでなく、「この質感の表現は油絵ならではだな」「この小物には隠された意味があるかもしれない」「この時代の自画像には画家のどんな思いが込められているんだろう」といったように、より深く、多角的に作品を読み解く視点が養われます。
読むことで得られる、あなたの変化
- 美術館で北方ルネサンスの作品に出会った時の感動が倍増する!
- ルネサンスという時代を、イタリアだけでなくヨーロッパ全体という広い視野で捉えられるようになる。
- 油絵という技術がいかに画期的なものだったか、その凄さを体感できる。
- アーティストたちが、いつ、どのようにして「個人」としての意識を持ち始めたのかを知る。
- 美術作品に隠された象徴を読み解く「美術探偵」のような視点が身につくかも!?
- 美術史という教養が深まり、他の分野の知識との繋がりが見えてくる。
まとめ:ルネサンスの奥深さを知るなら、この一冊を!
中央公論新社「西洋美術の歴史5 ルネサンスII – 北方の覚醒、自意識と自然表現」。
この本は、イタリア・ルネサンスという大きな山の陰に隠れがちな、しかしイタリアに劣らず豊かで革新的な、北方のルネサンス美術の世界へと私たちを導いてくれる素晴らしい一冊です。
ファン・エイク兄弟による油絵革命、デューラーの強烈な自意識、ボスの奇妙な世界、ブリューゲルの人間賛歌…。個性豊かなアーティストたちが、細密な描写と深い精神性をもって生み出した作品群は、私たちの知的好奇心をこれでもかと刺激します。
美術史に興味がある方、ルネサンスをイタリアだけでなく広く深く知りたい方、そして美術作品を「見る」だけでなく「読み解く」楽しさを知りたい方にとって、この本はまさに最高のガイドブックとなるでしょう。
ルネサンスという時代は、イタリアだけでなく北方でも力強く「覚醒」していました。その奥深い世界を、ぜひこの「西洋美術の歴史5」を通して体験してみてください。
今回、慶應通信の夜間スクーリング「西洋美術」の授業の為に読んだのですが授業の内容と連動してかなり補足資料としてはいけてる書籍だと思います。かなり内容が濃いのでジックリと読むことをお勧めします!
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