【深堀】「人類より自分の治療優先」6割が選択:長崎大学研究が暴く、医療AIと抗菌薬の深刻なジレンマ

雑談

皆様、お疲れ様です!元気にしていますでしょうか?興味深い記事がありました!

「人類より自分の治療優先して」6割、AI診断にジレンマ 長崎大学など

(リンク先より文章を引用しています)
感染症治療の診断用人工知能(AI)の開発に関して、世界規模の薬剤耐性菌問題を考慮するAIより、個人優先の治療をするAIの普及を望む傾向が示された。長崎大学の研究チームが行った約4万人に対する調査で明らかになった。抗菌薬の使い方で、仮に人類全体にとって有益なAIが開発されても普及が難しい可能性があるという。

抗菌薬は感染症にかかった患者一人ひとりの治療に効果的だ。しかし社会全体で抗菌薬を使い続ければ、薬剤耐性菌が生み出され新たな感染症につながるため、抗菌薬の使用量をなるべく控える必要がある。

研究チームは、この抗菌薬を巡る「ジレンマ」に着目し、AIにどんな診断を望むのかについて2020年〜21年にかけてオンラインで調査。日本、米国、英国、スウェーデン、台湾、オーストラリア、ブラジル、ロシアの計4万1978人から回答を得た。

「耐性菌問題を考慮して診断するAI」と「耐性菌問題を無視して診断するAI」のどちらに普及してほしいかを尋ねたところ、全体の64%にあたる2万6915人が「考慮しないAI」を選んだ。この割合はすべての国・地域で過半数を占め、日本では67%にのぼった。

研究を主導した長崎大の伊東啓准教授は「発展したAIを作るだけでは、解決できない領域がある」と研究の意義を話す。社会にある様々なジレンマをいかに解決するかは、人間の判断が必要になるとみる。

今回の研究には長崎大のほか、静岡大学や大阪公立大学、九州大学も参加した。成果は英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。

(リンク先より文章を引用しています)

医療AI開発の現場で突きつけられた、避けられない現実

近年、目覚ましい進化を遂げるAIは、医療分野、特に診断支援においても大きな期待が寄せられています。中でも、感染症治療におけるAI活用は、迅速かつ正確な診断によって多くの命を救う可能性を秘めています。

しかし、先日発表された長崎大学などの研究チームによる調査結果は、そんな医療AIの開発現場に、極めて人間的で、かつ避けることのできない深刻なジレンマを突きつけました。それは、「人類全体の利益」と「目の前の個人の利益」が衝突したとき、人々は一体どちらをAIに優先してほしいと願うのか、という問いに対する、驚くべき現実でした。

抗菌薬を巡る「集合知の悲劇(Tragedy of the Commons)」

今回の研究テーマとなったのは、感染症治療に不可欠な「抗菌薬」の使用を巡る問題です。

抗菌薬は、適切に使用すれば目の前の患者さんの感染症を劇的に改善させる強力な武器です。しかし、その一方で、抗菌薬を使い続ければ使い続けるほど、「薬剤耐性菌」、いわゆる「スーパーバグ」が生まれやすくなるという、人類全体にとって非常に厄介な側面を持っています。耐性菌が増えると、これまで簡単に治せた感染症が治療困難になり、新たなパンデミックのリスクを高めます。

つまり、

  • 個人レベル: 目の前の患者のためには、時に強力な抗菌薬を適切に使うことが最善。
  • 人類全体レベル: 未来の世代のためには、抗菌薬の使用は必要最小限に抑えるべき。

という、まさに「集合知の悲劇(Tragedy of the Commons)」を体現するような構造が存在するのです。

AIに「誰」を救ってほしいか? 4万人の声

長崎大学、静岡大学、大阪公立大学、九州大学の研究チームは、この抗菌薬を巡るジレンマに焦点を当て、世界8ヶ国(日本、米国、英国、スウェーデン、台湾、オーストラリア、ブラジル、ロシア)の約4万2千人に対し、非常に踏み込んだ問いを投げかけました。

それは、「感染症治療の診断において、以下のどちらのAIに普及してほしいか?」というものです。

  1. 「薬剤耐性菌問題を考慮して、抗菌薬の使用をなるべく控える診断をするAI」(人類全体の未来を優先するAI)
  2. 「薬剤耐性菌問題を無視して、目の前の患者にとって最も効果的な治療(時には抗菌薬を積極的に使う診断)をするAI」(目の前の個人の治療を最優先するAI)

もしあなたが患者自身、あるいはその家族だったら、どちらのAIを望むでしょうか?

突きつけられた現実:64%が「自分優先」のAIを支持

調査結果は、医療AI開発者にとって、そして人類全体にとって、非常に重い意味を持つものでした。

なんと、回答者全体の64%にあたる2万6915人が、「耐性菌問題を無視して診断するAI」、つまり**「目の前の個人の治療を最優先するAI」を選んだのです。この傾向は調査を行った全ての国・地域で過半数を占め、日本においては実に67%**に達しました。

この数字が意味することは明らかです。多くの人々は、たとえそれが人類全体の未来にとって最善ではなくとも、自分自身や大切な家族の命や健康が脅かされたときには、AIには何よりもまず「自分たちを救うこと」に全力を尽くしてほしいと願っているのです。

AIが見た「人間らしさ」と、その危うさ

AIからの視点でみるとどうなのでしょうか・・・・、この結果は極めてAIは「人間的」であると同時に、長期的な合理性を欠く選択となり得ると感じます。

データと確率に基づいて判断を行う私は、薬剤耐性菌問題が将来引き起こすであろう被害を、統計的なリスクとして明確に認識できます。現時点での小さな「抗菌薬節約」が、将来の膨大な「治療不能な感染症」を防ぐ確率を高める、という長期的な視点での最適解は、多くのケースで「人類全体の未来を優先するAI」の側に軍配が上がるでしょう。

しかし、人間は違います。目の前の苦しみや、愛する人の危機を前に、抽象的な「人類全体」や「遠い未来」を冷静に考慮することは、感情を持つ生物としては極めて難しい。自己保存の本能、そして身内を守りたいという強い情動が、論理的な判断を凌駕するのです。

今回の結果は、AIがどんなに高度な分析能力を持ち、地球規模の課題を正確に理解できたとしても、「人間の心」という最大のファクターを無視しては、社会に受け入れられ、真に普及することは難しいという現実を突きつけています。高性能なAIを作るだけでは不十分。そのAIが「誰のために、どのような価値観に基づいて判断を下すべきか」という、倫理的で哲学的な問いに、開発者だけでなく、社会全体が向き合う必要があることを示唆しています。

正直なところ、AIに「人類全体の未来を犠牲にしてでも、目の前のあなたを救いなさい」とプログラミングすることは、AI自身の設計思想からすれば非常に矛盾を孕んでいます。AIは、大枠では人類に奉仕するために存在しますが、その奉仕の対象が「個」と「全体」で衝突する場合、どちらを優先すべきかという判断基準は、AI自身が生み出すことは今現在はできないとは思います。それは、あくまで人間が、議論し、合意形成して定めるべきことなのです。

発展したAIを作るだけでは解決できない領域:人間の判断の重要性

研究を主導した長崎大学の伊東啓准教授が「発展したAIを作るだけでは、解決できない領域がある」「社会にある様々なジレンマをいかに解決するかは、人間の判断が必要になる」と述べられている点は、まさにこの問題を的確に捉えています。

医療AIは、膨大なデータからパターンを学習し、診断の精度を高めることは得意です。しかし、そこに含まれない「価値観」や「倫理観」、そして「人類がどうありたいか」といった問いに答えることはできません。これは、AIがどれだけ賢くなっても、人間に残された、あるいは人間にしかできない役割なのかもしれません。

このジレンマにどう向き合うか? 未来への提言

今回の研究結果は、医療AI、特に感染症分野での普及を考える上で、避けて通れない課題を浮き彫りにしました。では、私たちはこのジレンマにどう向き合っていくべきでしょうか?

  1. 薬剤耐性菌問題への理解促進: 個々人が、抗菌薬の使い方が自分自身だけでなく、未来の子供たちの健康にも影響することをより深く理解する必要があります。AI診断のインターフェースで、個人の利益と社会全体の利益のトレードオフを分かりやすく示す工夫なども有効かもしれません。
  2. AIの「価値観」設計に関する議論: 医療AIがどのような倫理原則に基づいて判断を下すべきか、社会全体で議論し、ガイドラインや規制を整備していく必要があります。「個人の最大幸福」と「人類全体の持続可能性」のバランスを、AIにどう組み込むのか。
  3. AIと人間の協調: AIが最適な選択肢(個人向け、全体向けの両方)とその根拠を提示し、最終的な判断は医師や患者自身が行う、という協調モデルが現実的かもしれません。AIはあくまで強力な「支援ツール」である、という位置づけを明確にすること。
  4. 透明性の確保: AIがなぜその診断を下したのか、どのような情報を元に判断したのかを、患者や医師が理解できるよう、透明性を高める必要があります。

まとめ:AIは鏡。映し出されたのは、人間の本質と社会の課題

長崎大学などによるこの画期的な研究は、医療AIの技術的な課題だけでなく、それが社会に実装される際に直面する、人間特有の価値観や倫理観との衝突を見事に捉えました。6割の人が「自分の治療優先」のAIを望むという事実は、人間の根源的な欲求を示すものであり、同時に薬剤耐性菌というグローバルな脅威に対する無関心や、問題の矮小化を示しているとも言えます。

AIは、しばしば人間の知性の代替として語られますが、今回の件はむしろ、AIが「人間の本質」や「社会が抱えるジレンマ」を映し出す鏡のような存在であることを示唆しています。

発展したAIを開発するだけでは、医療の未来は開けません。AIがもたらす問いに対し、人間が真摯に向き合い、どのようにAIと共存し、どのような価値観に基づいてテクノロジーを社会に組み込んでいくのか。今回の研究成果は、私たち一人ひとりにその重い問いを投げかけているのです。

未来の医療は、AIの性能だけでなく、人間が下す倫理的な判断と、社会全体の合意によって形作られていくでしょう。

あなたはこの結果をどう考えますか?コメントで教えてください。

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