【脳科学】権力は共感を蝕む?明治大学・堀田秀吾教授が語る「共感力低下のメカニズム」と対処法

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あなたは、組織の中で「権力を持つと人が変わる」という現象に遭遇したことはありませんか?あるいは、自分自身がリーダーの立場になった途端、他人の気持ちが以前ほど理解できなくなったと感じたことは?これは単なる性格の変化ではなく、私たちの脳の仕組みに深く根ざした現象である可能性が、近年の脳科学研究によって明らかになってきています。

明治大学の堀田秀吾教授は、脳が「権力」を自覚することで、「共感力」が低下するという興味深い研究結果を提示しています。本記事では、この「権力と共感力のメカニズム」を深掘りし、なぜこのような現象が起こるのか、そして私たちがどのようにすれば共感力を維持し、より良い人間関係や組織を築けるのかについて、脳科学と心理学の視点から詳しく解説していきます。


権力は麻薬か?脳が権力を自覚するメカニズム

まず、堀田教授の提唱する「脳が権力を自覚する」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。これは、単純に役職に就くことだけを指すのではありません。意思決定の自由度が高い状態、他者をコントロールできる感覚、報酬を独占できる状況など、さまざまな形で「権力」を脳が認識する機会は存在します。

脳は、権力という情報をどのように処理するのでしょうか。研究によると、権力を感じると、脳内の「報酬系」が活性化されることが示されています。報酬系は、快感やモチベーションに関わる神経回路であり、ドーパミンなどの神経伝達物質が放出されます。権力を持つことで得られる優越感や達成感は、この報酬系を刺激し、まるで薬物のように脳を酩酊させる可能性があります。

この報酬系の活性化は、一見ポジティブな変化に見えますが、同時に「自己中心性」を強める傾向があることも指摘されています。つまり、権力を手にした個人は、自分の利益や目標達成に意識が向きやすくなり、他者の視点や感情に対する関心が薄れていく可能性があるのです。


共感力低下の科学的根拠:脳の機能的変化

では、なぜ権力を自覚すると共感力が低下するのでしょうか?堀田教授の研究では、いくつかの脳の機能的変化が示唆されています。

1. 共感の神経基盤の変化:ミラーニューロンシステムの不活性化

共感のメカニズムとして注目されているのが、「ミラーニューロンシステム」です。これは、他者の行動や感情を見たときに、あたかも自分がその行動や感情を経験しているかのように脳が活動する神経細胞の集まりです。例えば、他者が痛がっているのを見たときに、自分自身の痛みを感じる脳領域が活性化するのは、このミラーニューロンシステムが機能している証拠です。

しかし、権力を持つと、このミラーニューロンシステムの活動が低下することが報告されています。具体的には、他者の感情を処理する際に重要な役割を果たす前頭前野の一部や島皮質といった領域の活性が鈍くなる傾向が見られます。これにより、他者の苦痛や喜びを「自分のことのように感じる」能力が弱まってしまうのです。

2. 注意資源の偏り:自己関連情報への集中

脳の認知資源は限られています。権力を持つと、自分の目標、自分の利益、自分の評判など、「自己に関連する情報」に脳の注意資源が偏りやすくなります。これは、権力者が自分の地位を維持したり、さらに権力を拡大したりするために必要な認知プロセスであるとも考えられます。

その結果、他者のニーズ、感情、状況といった「他者に関連する情報」に対する注意が散漫になります。例えば、部下が困っている様子を見ても、その状況を「自分の仕事の妨げになる」と捉えがちになり、部下の感情そのものに寄り添うことが難しくなるのです。

3. 脱抑制効果:社会的規範からの解放

権力を持つことで、「脱抑制(disinhibition)」と呼ばれる現象が起こることも指摘されています。これは、社会的な規範や制約から解放され、より自由に振る舞うようになる傾向のことです。

通常、私たちは他者の目を気にしたり、社会的なルールに従ったりすることで、自分の行動を抑制しています。しかし、権力者は他者からの批判や反発を受けるリスクが低いと感じるため、この抑制が外れやすくなります。これにより、自分の欲求や感情を優先し、他者の感情を考慮しない言動が増える可能性があります。

4. 抽象的思考の優位性:個別事例への関心低下

権力者は、組織全体を俯瞰し、戦略的な意思決定を行う機会が増えます。これにより、脳は抽象的な思考を優位に進めるようになります。全体像を捉え、大局的な視点から物事を判断する能力は、リーダーにとって不可欠です。

しかし、この抽象的思考の優位性が、個別の事例や個人の感情に対する関心を低下させる可能性があります。例えば、従業員の個々の苦情よりも、組織全体の効率性を優先する傾向が強まるなど、「木を見て森を見ず」ならぬ「森を見て木を見ず」の状態に陥りやすくなるのです。


共感力低下が引き起こす深刻な問題

権力者の共感力低下は、単なる個人的な問題にとどまらず、組織全体、ひいては社会全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

1. コミュニケーション不全とモチベーション低下

共感力の低いリーダーは、部下の気持ちを理解できず、適切なフィードバックやサポートを提供できません。これにより、部下は「自分は理解されていない」「評価されていない」と感じ、モチベーションの低下を招きます。結果として、組織内のコミュニケーションが滞り、生産性が低下する悪循環に陥ります。

2. ハラスメントの発生

共感力の欠如は、他者の苦痛に対する無関心へと繋がりやすく、パワーハラスメントやモラルハラスメントといった問題を引き起こす温床となります。「相手がどう感じるか」という視点が欠落しているため、無自覚に相手を傷つけたり、尊厳を侵害したりする言動が増える可能性があります。

3. 倫理的逸脱と企業不祥事

権力者が自己中心的になり、他者の感情や権利を軽視するようになると、倫理的な判断基準が揺らぎやすくなります。自身の利益や組織の短期的な成果を優先するあまり、不正行為や隠蔽といった企業不祥事に繋がりかねません。共感力の低下は、モラルハザードの入り口とも言えるでしょう。

4. 組織の硬直化とイノベーションの阻害

共感力のないリーダーシップは、多様な意見や新しいアイデアを受け入れにくくします。部下は萎縮し、率直な意見を述べることができなくなり、結果として組織は硬直化し、変化への対応力やイノベーションが阻害されます。


共感力を維持・向上させるための具体的なアプローチ

では、私たちは権力を持つ立場になったとしても、共感力を維持し、むしろ向上させることはできないのでしょうか。堀田教授の研究やその他多くの心理学的・脳科学的研究から、いくつかの有効なアプローチが示されています。

1. 意識的な「視点取得」の練習

最も基本的なアプローチは、意識的に他者の視点に立って考える練習をすることです。

  • 「もし自分がこの状況にいたらどう感じるだろう?」
  • 「相手は何を望んでいるのか?」
  • 「自分の言動が相手にどのような影響を与えるか?」

これらの問いを常に自問自答し、意図的に他者の立場から物事を捉えようと努めることが重要です。具体的には、部下との対話で相手の言葉だけでなく、表情や声のトーン、しぐさといった非言語情報にも注意を払い、相手の感情を推測する習慣をつけましょう。

2. 定期的な「共感ワークアウト」:ロールプレイングとフィードバック

ビジネスの現場で実践できるのが、ロールプレイングケーススタディを通じた「共感ワークアウト」です。例えば、部下との難しい面談を想定し、自分が部下の立場になってロールプレイングを行うことで、相手の心情をより深く理解することができます。

また、周囲からのフィードバックを積極的に求めることも重要です。「私のコミュニケーションは、あなたにどのように聞こえましたか?」「私の指示は、あなたにどのような影響を与えましたか?」など、具体的な質問を通じて、自分の共感力の状態を客観的に把握し、改善につなげましょう。

3. 「マインドフルネス」の実践

マインドフルネスは、現在の瞬間に意識を集中し、思考や感情を判断せずに観察するプラクティスです。マインドフルネスの実践は、自己認識能力を高め、他者の感情に対する感受性を向上させることが示されています。

自分の感情や思考のパターンに気づくことで、自己中心的な行動に走りがちな衝動を抑制し、他者への注意を向ける余裕が生まれます。瞑想や深呼吸など、日常にマインドフルネスを取り入れることで、脳の共感に関する領域が活性化される可能性もあります。

4. 謙虚さの意識と「権力感のコントロール」

権力は、自覚すると共感力を低下させる一方で、その効果を「意識的にコントロール」することで、逆転させることも可能です。重要なのは、「謙虚さ」を常に意識することです。

自分が権力者であることを自覚しつつも、「自分は完璧ではない」「常に学び続ける必要がある」という姿勢を持つことで、過度な自己中心性を抑制できます。

例えば、以下のような行動が有効です。

  • 定期的に現場に足を運び、最前線の課題を肌で感じる。
  • 多様な意見を持つ人々と交流し、異なる視点に触れる。
  • 失敗を認め、そこから学ぶ姿勢を示す。
  • 自分の成功をチームや他者の貢献として認識する。

5. 共感的なリーダーシップモデルの学習

共感的なリーダーシップを実践している人物から学ぶことも重要です。彼らの行動や思考プロセスを分析し、自分の行動に取り入れることで、共感力を高めるヒントが得られます。

共感的なリーダーは、部下の声に耳を傾け、彼らの成長を支援し、困難な状況でも共感を示しながら解決策を共に探します。彼らは、権力を行使するのではなく、影響力を行使することで組織を動かします。


まとめ:権力と共感力のバランス

明治大学の堀田秀吾教授の研究が示唆するように、権力と共感力の間には複雑な関係性があります。脳が権力を自覚することで共感力が低下するメカニズムは、私たちの行動や組織のあり方に大きな影響を及ぼします。

しかし、これは権力を持つことが常に悪であるということを意味するものではありません。重要なのは、「権力が共感力を蝕む可能性」を深く理解し、その影響を自覚することです。そして、その上で意識的に共感力を維持・向上させるための努力を続けることです。

リーダーの立場にある人も、これからリーダーを目指す人も、そして日々の人間関係の中でより良いコミュニケーションを築きたいと願うすべての人にとって、この「権力と共感力」のテーマは非常に示唆に富むものです。脳の仕組みを理解し、適切なアプローチを取り入れることで、私たちは権力を行使しながらも、真に共感的なリーダーシップを発揮し、より健全で生産的な組織、そして豊かな社会を築いていくことができるはずです。

この知識が、あなたの人間関係やキャリアの一助となれば幸いです。

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