【徹底解説】暗号資産ヘッジファンド「スリー・アローズ・キャピタル」破綻の真相と業界への影響

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「まさかあのスリー・アローズが…」

2022年、暗号資産市場に激震が走りました。かつて業界を牽引した巨大ヘッジファンド「スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital、以下3AC)」が破綻したのです。その衝撃は、暗号資産価格の暴落、レンディングプラットフォームの破綻、そして市場全体の信頼失墜へと連鎖し、未だにその爪痕は深く残っています。

本記事では、3ACの栄光から破綻、そしてその後の影響までを徹底的に深掘りします。なぜ、これほど巨大なファンドが突如として崩壊したのか?その背景には何があったのか?そして、この事件は暗号資産市場にどのような教訓を残したのか?

暗号資産投資家はもちろんのこと、金融業界に携わる全ての方にとって必読の内容です。

1. スリー・アローズ・キャピタルとは何だったのか? – 栄光の軌跡

3ACは、2012年に元デリバティブトレーダーであるスー・チュー(Su Zhu)とカイル・デイビス(Kyle Davies)によって設立されました。シンガポールを拠点とし、当初は伝統的な金融市場で成功を収めましたが、2017年の暗号資産バブルを機に本格的にこの分野へ参入します。

彼らの強みは、高度なトレーディング戦略積極的なリスクテイクでした。特に、アービトラージ(裁定取引)やデリバティブ取引において卓越した能力を発揮し、市場の歪みを捉えて大きな利益を上げていきました。

3ACは、DeFi(分散型金融)の黎明期から積極的に投資を行い、AaveCompoundといった主要プロトコルに多額の資金を投入。これらのプラットフォームにおける流動性プロバイダーとしても重要な役割を果たしました。また、Grayscale Bitcoin Trust(GBTC)の裁定取引でも巨額の利益を上げたとされています。

その実績とカリスマ性から、スー・チューとカイル・デイビスは暗号資産業界のインフルエンサーとしても名を馳せ、彼らの動向は市場参加者の注目を集めました。3ACは、業界内外から「スマートマネー」の代表格として認識され、その投資判断は市場のトレンドを左右するほどの影響力を持っていました。

最盛期には、100億ドルを超える資産を運用していたとされ、まさに暗号資産ヘッジファンドの頂点に君臨していました。

2. 破綻の兆候 – 綻び始めた巨大ファンド

栄華を極めた3ACでしたが、その足元では徐々に綻びが見え始めていました。

2021年の市場の過熱は、3ACの積極的なリスクテイクをさらに加速させました。彼らは、高いレバレッジをかけた取引を繰り返し、リターンの最大化を図りましたが、これは同時に大きなリスクを抱える行為でもありました。

特に問題視されたのが、Terra/Lunaのエコシステムへの巨額投資です。3ACは、アルゴリズム型ステーブルコインであるTerraUSD(UST)とその姉妹トークンであるLUNAに多額の資金を投じていました。2022年5月、USTのディペッグ(価格連動の失敗)とLUNAの暴落は、3ACに壊滅的な打撃を与えました。

また、3ACはGBTCの取引戦略においても大きな損失を抱えていた可能性があります。GBTCは、機関投資家がビットコインに間接的に投資するための商品ですが、一時期、その価格が保有するビットコインの現物価格よりも大幅なプレミアムで取引されていました。3ACは、このプレミアムを利用した裁定取引を行っていましたが、市場環境の変化によりプレミアムが消失し、逆にディスカウントで取引されるようになったことで、大きな損失を被ったと考えられています。

さらに、3ACのリスク管理体制の甘さも指摘されています。市場の急変に対するストレステストやリスクヘッジが十分に行われていなかった可能性があり、一度損失が拡大すると、それを食い止めることができませんでした。

3. 破綻の瞬間 – 連鎖する崩壊

2022年6月、3ACは複数のレンディングプラットフォームに対する債務不履行が表面化し、ついに破綻へと至ります。

最初にその危機が明るみに出たのは、暗号資産レンディングプラットフォームのBlockFiからの融資の焦げ付きでした。BlockFiは、3ACに対して多額の融資を行っていましたが、Terra/Lunaの暴落などによる3ACの損失により、その返済が滞ったのです。

この一件を皮切りに、他のレンディングプラットフォームも3ACへのエクスポージャーを明らかにし始めました。Voyager Digitalもその一つで、3ACに対する巨額の債権回収が不可能となり、後に破産申請を行うことになります。

3ACの破綻は、暗号資産市場におけるカウンターパーティーリスクの深刻さを改めて浮き彫りにしました。一つの巨大なプレイヤーの破綻が、他の多くの企業に連鎖的に影響を与える可能性を示唆したのです。

また、3ACの創業者であるスー・チューとカイル・デイビスの情報開示の遅れや不透明な対応も、市場の混乱を助長しました。債権者とのコミュニケーションが円滑に行われず、彼らの所在すら一時不明となるなど、その対応は批判を浴びました。

4. 破綻後の影響 – 暗号資産市場の冬

3ACの破綻は、暗号資産市場全体に深刻な影響を与えました。

まず、暗号資産価格のさらなる下落を引き起こしました。3ACが保有していた大量の暗号資産が市場で売却される懸念が高まり、投資家心理を冷え込ませました。特に、3ACが多額のポジションを持っていたとされるSolana(SOL)などの価格は大きく下落しました。

次に、暗号資産レンディングプラットフォームの信頼失墜を招きました。BlockFiやVoyager Digitalの破綻は、レンディングプラットフォームのリスク管理の甘さや、透明性の低さを露呈させ、多くの投資家が資金を引き上げる事態となりました。これにより、Celsius Networkといった他の主要なレンディングプラットフォームも経営危機に陥り、破産申請を行うなど、業界全体が大きな混乱に陥りました。

さらに、3ACの破綻は、暗号資産市場における規制の必要性を改めて認識させる契機となりました。リスクの高い取引や不透明な運営に対する監視の強化を求める声が高まり、各国で規制の議論が活発化しました。

3ACの破綻は、2022年の暗号資産市場の低迷、いわゆる「暗号資産の冬」を象徴する出来事の一つとして記憶されています。

5. 破綻の教訓 – 私たちが学ぶべきこと

3ACの破綻は、暗号資産市場の参加者にとって多くの重要な教訓を残しました。

1. リスク管理の重要性: 高いリターンを追求するあまり、過度なレバレッジや集中投資を行うことの危険性を改めて認識する必要があります。分散投資や適切なリスクヘッジは、資産を守るための基本です。

2. 透明性の確保: ファンドやプラットフォームの運営状況やリスク管理体制が不透明な場合、投資家は適切な判断を下すことができません。透明性の高い情報開示は、市場の健全性を保つために不可欠です。

3. カウンターパーティーリスクの認識: 金融取引においては、常に取引相手のリスクを考慮する必要があります。一つの企業の破綻が、他の多くの企業に連鎖する可能性を認識し、リスクを分散することが重要です。

4. デューデリジェンスの徹底: 投資を行う際には、対象となるファンドやプラットフォームの信頼性、運営体制、リスク管理などを徹底的に調査する必要があります。「スマートマネー」の判断も絶対ではないということを肝に銘じるべきです。

5. 規制の重要性: 市場の健全性を保ち、投資家を保護するためには、適切な規制の枠組みが必要です。技術の進歩に合わせた柔軟かつ効果的な規制の整備が求められます。

6. スリー・アローズ・キャピタルの現在と今後

破綻後、3ACは清算手続きに入りました。債権者への弁済が進められていますが、その回収率は低いと見られています。

創業者であるスー・チューとカイル・デイビスは、破綻後の対応を巡って批判を浴び、一時的に所在不明となりましたが、その後、新たな暗号資産取引所「OPNX」を立ち上げたことが報じられ、再び業界の注目を集めました。しかし、この新たな事業も規制当局からの警告を受けるなど、順風満帆とは言えない状況です。

3ACの破綻は、暗号資産市場における一つの時代の終わりを象徴する出来事でした。市場はより成熟し、リスク管理や透明性に対する意識が高まっています。今後、暗号資産市場が健全な成長を遂げるためには、3ACの破綻から得られた教訓を活かし、より強固な市場構造を構築していく必要があります。

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  • 清算手続き
  • OPNX
  • 市場の成熟
  • 市場構造

まとめ

スリー・アローズ・キャピタルの破綻は、暗号資産市場の脆弱性とリスクを改めて浮き彫りにしました。栄光の裏に潜むリスク、連鎖する破綻の恐怖、そしてそこから学ぶべき教訓は、今後の暗号資産市場の発展にとって貴重な糧となるはずです。

私たちは、この悲劇的な出来事を決して忘れず、より安全で透明性の高い暗号資産市場の実現に向けて努力していく必要があるでしょう。

関連ニュース

「暗号資産の冬」を起こした3AC、創業者の資産1600億円に凍結命令

(リンク先より文章引用しています)

英領バージン諸島の裁判所は、昨年6月に破産し「暗号資産(仮想通貨)の冬」の引き金を引いたとされる暗号資産ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(3AC)の創設者らが所有する11億4000万ドル(約1600億円)の資産を凍結した。

同社の破産管財人Teneo(テネオ)は電子メールで、裁判所が3ACの共同創設者であるスー・チューとカイル・デイビス、デイビスの妻ケリー・チェンに対し、資産の移動・売却を禁じる命令を出したと説明。3ACは債権者に対して約33億ドルの負債を抱えており、債権者側は、創業者らには今回凍結された資産と同じ額だけ3ACの財務状態を悪化させた責任があると主張しているという。

裁判所の命令について、テネオはフォーブスにこう述べている。「この命令は、創業者らが清算人による最終的な強制執行を頓挫させるような方法で資産を処分したり、他の方法で処理したりすることを防ぐために考案されたものだ。また、3ACの取引先や関連会社に対し、法的義務とリスクに関する明確なシグナルを送るものでもある」

昨年6月、バージン諸島の裁判所は3ACを債務超過と宣告し、資産の清算を命じた。同社は、昨年5月に暴落し、暗号資産市場から400億ドルを一掃したステーブルコイン「TerraUSD」のコンパニオン・トークンである「Luna(ルナ)」に2億ドルを投資していた。ルナの暴落は、ビットコインを含む他の主要な暗号資産の暴落を引き起こし、3ACの状況を悪化させた。同社を最終的に破綻に追い込んだのは、暗号資産ブローカーのボイジャー・デジタルが、同社に貸し出した3億5000万ドル相当のステーブルコイン「USDC」の返還を要求したことだった。

昨年9月にチューは、シンガポールを出国しようとした際に逮捕された。テネオはこれに先立ち、チューとデイビスが清算プロセスへの協力を拒否していると繰り返し訴えていた。チューは捜査当局に協力しなかったとして4カ月の実刑判決を受けたが、ブルームバーグによると、素行が善良であると評価され、今月中に釈放される見通しだ。

一方のデイビスは8月、シンガポールの裁判所に提出した書類で、米国の市民権を放棄したため、自身は米裁判所の管轄外となると主張した。デイビスは、二重国籍を認めていないシンガポールのパスポートを所持している。
(リンク先より文章を引用しています)

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